上顎(うわあご)の奥歯にインプラントを考えている方は、骨の量に注意が必要になります。
目の下、鼻の横には、サイナス(上顎洞)と呼ばれる空洞があります。この空洞があるため、上顎は奥歯にかけて骨が薄い方が多く、しっかりと歯が生えている状態でも骨が薄い方も多くいます。
インプラントは骨に埋入するため、ある程度の骨の量が必要になります。
そのため、一定の骨量がない場合はインプラントの治療が難しくなり、歯医者さんによってはインプラントができないと言われてしまいます。
そうした理由で「骨が薄いからインプラントができないと言われた」とインプラント治療を諦めてしまう方は少なくありません。
しかし現在では、様々な治療方法で骨の厚みや幅を作ることで安心してインプラント治療が受けられるようになりました。
この記事では上顎の奥歯のインプラント治療についてご紹介します。
【この記事の監修歯科医師】
越前谷 澄典 先生
歯科医師/歯学博士
医療法人社団スマイルオフィスデンタルクリニック 理事長
GDHインプラントオフィス札幌 院長
北海道医療大学歯学部卒業。
年間1,000本以上のインプラント埋入の手術を行ない、日々歯科の技術と知識の向上に情熱を注いでいます。
まとめ
1. 上顎の骨が薄いとインプラント治療が難しい理由
・短いインプラントを使うとどうなるのか
2. なぜ骨が薄くなるのか
・ブリッジや欠損歯の放置
・歯周病によって骨が破壊される
・入れ歯によって骨が痩せる
4. サイナスリフト
・サイナスリフトのメリット
・サイナスリフトのデメリット
5. ソケットリフト
・ソケットリフトのメリット
・ソケットリフトのデメリット
1. 上顎の骨が薄いとインプラント治療が難しい理由
スマイルオフィスデンタルクリニックにも過去にインプラントを考えていたけど、他の歯医者さんで骨が薄くてインプラントができないと言われたという患者様も多く来院されます。
一般的にインプラント治療では、長さが10mm以上のインプラントフィクスチャーを使用するため、上顎の奥歯のところの骨が10mm以下であると、インプラントが上顎洞を突き破ってしまい、上顎洞炎という感染症を引き起こしたり、インプラントが上顎洞の中に迷入してしまうリスクがあります。
骨の量がなければインプラントがしっかりと埋入できず、不安定になってしまい長持ちしない原因になってしまいますし、骨の幅がないとインプラントが剥き出しになってしまいます。
・短いインプラントを使うとどうなるのか
骨が少ないのであれば、その長さや幅に合わせたインプラントを埋め込めばいいのでは?と思われるかもしれません。実際インプラントにも様々な長さや幅のものがあり「ショートインプラント」と呼ばれる8mm以下のインプラントもあります。
ここで注意が必要なのが、インプラントも歯の構造と似ており、歯は、「歯冠」と呼ばれる歯茎から上に出ている部分と、「歯根」と呼ばれる歯茎に埋まっている部分からなります。
通常、歯冠より歯根のほうが長いため、歯がぐらついたり、突然抜けてしまう心配もありませんが、この歯根が短くなればなるほど歯は安定性を失ってしまうため、歯の寿命が短くなってしまいます。
インプラントは「第二の永久歯」と呼ばれているとおり、インプラントも歯の構造と同じです。
歯根の役割をしている「フィクスチャー」と歯冠の役割をしている「上部構造」からできていて、歯根が短くなればなるほど安定性を失うように、骨とフィクスチャーの接着面積が少なくなるほど安定性を失ってしまうのです。
2. なぜ骨が薄くなるのか
上顎の奥歯の骨は元々薄いところなのですが、長年入れ歯を使っていたり、歯周病が進行している場合は更に薄くなってしまいます。
・ブリッジや欠損歯の放置
骨は、筋肉と同じように鍛えると作られ、強くなります。歯があるときは、噛むことによって骨に適度な刺激が与えられ、骨が無くなることはありません。
しかし、歯が無くなってしまうと骨に刺激がいかず、どんどん骨は衰えていき、次第にやせ細くなってしまいます。 このように骨がやせていくことを、「骨吸収(こつきゅうしゅう)」と呼びます。
骨吸収は失った歯をそのまま放置しているだけではなく、ブリッジという治療方法でも起こります。
ブリッジは見た目上は歯があるように見えますが、実際に歯があるわけではありませんから、骨には刺激が与えられないため、骨吸収は進んでいきます。
・歯周病によって骨が破壊される
歯があっても骨が痩せてしまうことがあります。その原因が歯周病の進行です。
歯周病は、歯が埋まっている骨(歯槽骨)がどんどんなくなっていく病気です。
「歯茎が下がってきた」という言葉を耳にしたことはありませんか?これは歯茎が下がっているのではなく、歯茎の下の骨がなくなっていくため、それと一緒に歯茎も下がっていくのです。
歯を支えている骨がなくなっていきますので、支えを失った歯はだんだんグラグラするようになり、最悪抜け落ちてしまいます。
一度なくなった骨は、元に戻ることはありません。
歯周病を放置してしまうと歯が抜け落ちるまで骨はなくなっていき、薄くなるのです。
・入れ歯によって骨が痩せる
程よい刺激がないと骨が痩せてしまうと前述しましたが、過度な刺激も骨が痩せてしまう原因となります。
よくみる例が、合っていない入れ歯を使っている方です。入れ歯が合っていないと歯茎に無理な力(負荷)がかかってしまうため、骨が痩せてしまいます。
総入れ歯をつけているおじいちゃん、おばあちゃんが入れ歯を外すと、唇が内側に入っていくようなクシャッとした顔になりますよね。
これも、歯が無くなり骨が無くなった影響です。
3. 骨が薄い人がインプラントをするための骨増成術
上顎の奥歯の骨が薄い方はどのようにして長持ちするインプラントを埋入していくのでしょうか。
スマイルオフィスデンタルクリニックでは、患者様の将来性を考えて、インプラントの寿命を長くできるように、最短でも10mmのインプラントを使用しています。
そのため、骨の量が10mmを下回っている場合は、骨増成術(こつぞうせいじゅつ)で骨を増やしてから、インプラントを埋入するようにしています。
一般的な骨造成術として、
・サイナスリフト
・ソケットリフト
・GBR法(骨再生誘導法)
・ベニアグラフト(ブロック骨移植)
などが挙げられます。
ここでは上顎の奥歯のインプラント治療時に行われる「サイナスリフト」と「ソケットリフト」の2つについてご紹介します。
4. サイナスリフト
骨が極端に薄い場合、たくさん骨を増やす必要があります。
そうした場合に行うのが「サイナスリフト」です。
歯茎側面に穴をあけ、慎重に粘膜を剥がしできたスペースに上顎洞(=サイナス)を持ち上げる(=リフト)ように、人工骨を入れていく方法です。
・サイナスリフトのメリット
骨が非常に薄く、インプラントができないと言われた方もサイナスリフトを行うことで安心してインプラント治療が受けられます。
サイナスリフトは奥歯の広範囲に骨を作っていくことができるため、複数本インプラントを埋入することも可能です。
また、歯茎側面を切開して直視下で(目で確認しながら)行いますので安全性は非常に高いです。
・サイナスリフトのデメリット
サイナスリフトは、歯茎の側面に穴を開け人工骨をいれていくので傷口が大きくなります。
そのため、回復に時間がかかり、術後腫れることがあります。
特に、術後お鼻をかんだりすると、鼻水に血が混ざったりしますが、これは上顎洞(サイナス)は副鼻腔のひとつで、鼻腔に繋がっているからです。
術後は強くお鼻をかまないようにお願いしています。
また、ほとんどの方はサイナスリフトとインプラントの埋入を同日に行いますが、骨の状態によってはサイナスリフトとインプラントの埋入を別々で行うこともあります。
その場合はまずサイナスリフトを行い、人工骨とご自身の骨が馴染むまで6ヶ月待ってから、インプラントを埋入することになるため、治療期間を長くなってしまいます。
5. ソケットリフト
ソケットリフトはそこまで骨が薄くない場合に行われます。サイナスリフトと違い広範囲ではなく、部分的に骨造成を行っていく方法です。
・ソケットリフトのメリット
ソケットリフトは、外科手術の範囲が少ないため、傷口が小さくなり負担がも少なくなります。
・ソケットリフトのデメリット
ソケットリフトは部分的に骨を作っていく方法のため、サイナスリフトほど広範囲に骨を増やすことはできません。
また、ソケットリフトは直視下ではなく、盲目的で見えない環境下で行う方法のため、上顎洞の境目の粘膜を破いてしまう恐れがあります。
6. まとめ:骨が薄い人ほど歯科医師の技術が問われます
インプラントは手術が必要な治療です。簡単な手術、難しい手術と分けるとすると、骨が薄い人ほど難しい手術になると思ってください。
札幌市内でインプラント治療を行なっている歯医者さんは多いですが、サイナスリフトやソケットリフトのように骨を増やす手術には非常に高度な技術が必要なため、こうした骨造成術を行なっていない歯医者さんは多いです。
そうした理由からスマイルオフィスデンタルクリニックには他院で骨の厚みがなくインプラントができないと言われた患者さまのご相談も多数受けますが、みなさま無事にインプラント治療を受けて頂けていますので、インプラントを諦めてしまった方はもちろんのこと、上顎の奥歯にインプラントを検討されている方はぜひ一度ご相談くださいませ。
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