「インプラント治療を受けるとMRIが出来なくなるからやめた方がいいと聞きました」
患者様から度々このようなことを聞きますが、結論から言うと、気にする必要はほとんどありません。
結論から言うと、気にする必要はほとんどありません。
当院は札幌市内の歯医者のなかでもインプラントの手術件数が多いため、こうしたインプラントに関わる質問や相談を日々行なっておりますが、ほとんどの方が誤解を持っています。
ただ、それは仕方ありません。
私たちは歯科に携わる人間として日々勉強を続けていますが、患者様は違います。
こうした知識の差によって、患者様と医療従事者との間でコミュニケーションギャップが生まれ、トラブルを引き起こすことに繋がります。
今回のこのインプラントとMRIとの関係に関しても、「大丈夫ですよ」と言えばそれで終わりなのですが、ぜひこの機会にインプラントについて、もう少し細かいところまで理解して頂ければと思い、ご紹介します。
1. インプラントの意味
インプラント(implant)とは、体内に埋め込まれる器具の総称です。
im=inは中にという意味で、plant=植物などを植えるという意味ですが、implantはこの2つの言葉を合わせた造語です。
一般的なイメージでは「インプラント=歯科治療」と思われがちですが、歯科に限らず、体内に埋め込むことを総称してインプラントと呼ばれています。
次に様々な分野・目的で使用されているインプラントをご紹介します。
1-1. 医療目的のインプラント
失われた歯根に代えて顎骨に埋め込む人工歯根(デンタルインプラント)のことで、いわゆる歯科におけるインプラントです。
骨折やリウマチ等の治療で骨を固定するためにボルトを埋め込んだことがある人は多いと思います。
実はこのボルトもインプラント治療のひとつです。
他にも心臓に埋め込むペースメーカーや人工中耳、眼内レンズなど、「インプラント」は歯科の分野に限らず医療目的で広くおこなれています。
「体内に異物を入れるなんて、、、」と思われている方もいらっしゃいますが、こうしてみるとインプラント治療自体は私たちにとって身近な治療であることがお分かりになられるかと思います。
1-2. 美容目的のインプラント
医療目的以外にも美容目的のインプラントもあります。
豊胸目的で乳房に埋め込むシリコンインプラントが代表的かと思います。
美容目的となると様々な意見をお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが、これらも広い意味ではインプラント治療となります。
1-3. ファッション目的のインプラント
身体改造など呼ばれていますが、ファッション目的で皮下浅くに埋め込むインプラントもあります。
皮膚内に完全に埋め込んだり、皮膚上に装飾具を出す形で行われたりなど、日本ではあまり見かけませんが海外ではこのような目的でインプラントを行なっている人が世界にはいるようです。
あくまでもファッション目的であり、倫理観や違法性の問題もあるため、日本で普及することはあまり考えられませんが、こうしたものもインプラントと呼ばれているということをご理解ください。
2. MRIとは
人の体が収まるくらいのトンネルに、強力な磁場を作り、体の組織内の水素分子に刺激を加えます。
そのときに起きる変化を解析し、画像として再構成するのがMRIです。
CT(レントゲン)のように放射線を当てるわけでもありませんので、被ばくする心配がありません。
そのため、それまで主流だったCTに代わり、MRIは世界中で普及しました。
もちろん、CTにもMRIにもそれぞれのメリット・デメリットがあり、日進月歩で進化している検査機器です。
これらの検査機器のおかげで数多くの病気が発見されてきたことを考えると、インプラントが理由で将来的にこうした検査機器が受けられなくなることへの不安は当然なことだと思います。
また、もしインプラントによってMRIが出来なくなってしまうのであれば、当然私たちも今よりももっと慎重にインプラント治療を行う必要が出てきます。
3. デンタルインプラントがMRIにおよぼす影響
MRIは被ばくすることはないということで、安心して受けられるということで広く普及しましたが、撮影の際に起こる強力な磁場に、他の磁性体が引きつけられるという事故も増えてきました。
そのため、MRIを撮影するときはピアスやネックレスなどの「金属」を外すというのが一般的となり、心臓のペースメーカーなど埋め込まれているために外せない「インプラント」をしている人はMRIが受けられないと言われるようになりました。
私たちが普段行なっている歯科治療としてのインプラント「デンタルインプラント」がMRIにおよぼす影響を説明します。
3-1. 発熱の可能性
磁石に引き付けられるものを磁性体といい、磁石に引き付けられないものを非磁性体といいます。
MRI検査は強力な磁場が発生するため、磁石に引きつけられる磁性体のものがあった場合、その影響で熱を発生する危険があります。
指輪やネックレスなどの装飾品をつけたまま、MRI検査を受けると、その周囲に火傷を負うことがありますが、これは、装飾品に含まれる金属が磁石と引き合う磁性体となりうるからです。
身近な磁性体では、例えばシャープペンシル、ボールペン、ベルト、鍵、装身具(指輪、ネックレス、ピアス)などがありますが、金属の種類にもよります。
金や銀、プラチナといった貴金属は非磁性体のためそれほど心配はいりません。
鉄やニッケル、ステンレスなどは強磁性体の金属のため、MRI検査の際は注意が必要です。
では、私たち歯科医院が行なっているインプラント治療で使用される人工歯根としてのインプラントはどうでしょうか?
使用しているインプラントの材質がチタンであれば非磁性体のため発熱などの影響はほとんど考えられませんし、論文などでもそのような報告は聞いたことがありません。
インプラントを製造するメーカーも多数あるため、中にはチタン以外の金属も多く使用されたインプラントもあるかもしれません。
そのため、私たちは信頼できるインプラントメーカーを選び、チタン製のインプラントを使用しているのでご安心ください。
3-2. MRI画像への悪影響
発熱以外にも磁性体の金属が与える影響があります。
磁性体の影響によりMRI画像に歪みや乱れ、画質低下などの悪影響を及ぼすことです。
しかし、この原因も先ほどの発熱と同じように「磁性体の金属」です。
非磁性体のインプラントであればこうした影響もほとんど考えらえられません。
それよりも、矯正装置や銀歯や入れ歯のバネといった一般的な歯科治療で使われる金属のほうがニッケル、コバルトクロムといった磁性体の金属のため、アーチファクトは発生しやすいと考えられます。
インプラントよりも口腔内にたくさんの銀歯がある人のほうが影響は出やすいのです。
ただし、インプラントオーバーデンチャーと呼ばれるようなインプラントと入れ歯をマグネット(磁石)で固定したり、根面板と呼ばれる歯根と入れ歯をマグネットで固定している方は注意が必要です。
入れ歯を外してもインプラントや歯根側にもキーパーと呼ばれる磁石が口腔内には残っているためです。
これらも発熱などの報告はありませんが、アーチファクトによる画像への影響は出やすいので、あらかじめ磁石で入れ歯を固定している旨を伝えておいた方がいいです。
※参照
「磁性アタッチメントとMRI」歯科用磁性アタッチメント装着時のMRI安全基準マニュアル|日本磁気歯科学会
4.まとめ
長くなりましたが、歯科におけるインプラント治療がMRI検査に与える影響は少ないと考えています。
安心してインプラント治療を受けて下さい。
患者様も医療従事者もコミュニケーションギャップを起こさないためにも知識を持っているに越したことはありません。
4-1.インプラントと言っても様々なインプラントがある
こちらは歯のインプラントだと思っていても、放射線技師の方は心臓ペースメーカーや人工内耳の事を指してインプラントだと言っているかもしれません。
こうした患者と医療従事者とのコミュニケーションギャップというのはトラブルのもとです。
そうならないために、インプラントと言っても歯だけでなく、色々あるものだという事は知っておいて頂きたいです。
4-2. 金属が磁性体か非磁性体かによって影響は変わる
口腔内には、インプラントに限らず、いわゆる銀歯といった金属の詰め物や被せ物が入っている方は少なくありません。
本当に危険であればインプラントに限らず、金属の詰め物・被せ物で発熱や画像の乱れが発生するはずです。
しかし、現在ではMRI装置の性能が向上していますので、口の中の金属を除去する必要は少ないように思われます。
たくさん銀歯が入っている人は画像が乱れるため、銀歯を外すように言われることがあるかもしれません。
外すのは簡単ですが(歯科医師は大変ですが、、、)外したままでは食事などの日常生活が不便です。
銀歯を外して、仮歯を作って、MRIを受けて、また型取りして銀歯を作り直す。
患者様にとってはMRIを受けられるだけでも精神的な負担が大きいと思いますのでとても大変です。
そのため、もし銀歯を外すように指示された場合は、まず一度かかりつけの歯医者にご相談ください。
緊急を要するMRI検査なのかどうかによっても対応が変わってきます。
すぐに入院となると外した後元に戻すことが困難になるかもしれません。
歯科と医科でしっかりと情報を共有し合い、患者様にどのような対応を双方が取るか計画していきます。
医療法人社団スマイルオフィスデンタルクリニック
理事長 越前谷 澄典